僕とイカ

スプラトゥーン用のメモ

野良でやる

 ゲームにおいて前提となる要素とそうでない要素の線引きは重要だと思うのだ。たとえば競馬だと各馬や騎手のこれまでの戦歴は事前に公開されている。これは馬券を買う全員に対して平等に与えられている情報で、参加者はこれをもとにいろいろと工夫をすることができる。でも馬券を買ったらあとは祈るしかない。宝くじは事前に得られる情報はない。最初から祈るしかない。

 スプラトゥーンにも前提となる情報がある。時間帯によってまず環境が決まる。12ステージ(2015/9/27時点)の中から2ステージが候補に上がり、かつガチマッチであれば3つのルールのうち1つのルールが指定される。これは前提となる要素で、すべてのプレイヤーに対してバトルにエントリーする前に公開される。アオリちゃんとホタルちゃんのニュースによって。僕はホタルちゃん派だ。で、プレイヤーはこの情報を元に武器や装備を事前に検討してからバトルに参加する。

 しかしエントリーを決断してからでないとわからない情報もある。自分以外の3人のチームメンバーはどういう武器をもってくるのか? 敵の4人の武器は? ステージは2種類の候補のうちのどちらが結局選択されたのか? この情報はゲーム開始時点で公開される。プレイヤー間でコミュニケーションをする術は(ゲーム内のシステムとしては)ないので、他のプレイヤーがどのような論理でどう動くつもりなのか、どのぐらいうまいプレイヤーなのかという情報はやり始めていくうちに明らかになっていく。たまたま全員の息が合えばすごくうまくいくかもしれない。こいつつええ!と思ったけれど、よくよく見ていると単なる暴れプレイが偶然通ったというケースもある。

 この、最後に公開されるプレイヤーの人物情報が一番重要なのだけど、1セットが3〜5分なのでだいたいあやふやなまま終わって行く。同じ部屋でずっと同じメンツでプレイしていればもうすこし見えてくるのだが、人の入れ替わりも激しいのであまり次につながることはない。

 一方で、8月のアップデートで追加されたタッグマッチはここらへんの前提がもう全然異なっていて、チームを組む人は事前にガッチリ4人で役割分担をを決めるし、プレイ中もスカイプチャットで常に情報交換しながら戦う。野良試合とは前提となる条件がまったく異なる。事前に考慮できないイレギュラーな条件として残るのはマッチングする相手側のチームに関する情報のみとなる。

 当たり前だけど事前に公開されている前提条件が多ければ多いほど運に左右される部分はすくなくなり、自分たちのテクニックだとか考えた戦略の効果が大きくきいてくる。だからまあ、心情としてプレイがこなれてくると野良マッチングに対して不満が出てくる。お互いの戦略が食い違ったり、武器の組み合わせがめちゃくちゃだったり、そもそもテクニックの差が大きかったりするので、それならもうフレンドを集めてしっかりと不確定条件を排除してしまおうと思い始める。

 どっちがいいでも悪いでもないのだけど、このように前提条件がまったく異なるのでタッグマッチでプレイするのと野良でプレイするのとでは取り組み方を大きく変えなければいけない。たとえば自分がリッターを担いで参加するとして、事前に打ち合わせをしたフレンドチームの中で唯一のリッターとして参加するのと、リッター3人揃ってしまってあと一人がマッチング待ちという野良チームでは、自分の役割も価値もまったく違ってくる。出てくる結果ももちろん変わる。全然変わる。

 なので、タッグマッチと野良のどちらをやるかによって戦い方も強さの評価基準も変わってくるのだ、という結論をとりあえず僕は出した。で、それを踏まえて僕は野良をやることにした。なぜか。タッグマッチは面倒くさいからだ。フレンドと毎回プレイ時間があうかわからない。あるときは3人しか集まらないかもしれないし、あるときは5人集まってしまうかもしれない。3回誘ってみて3回断られたときに、果たしてそれが偶然であったのか、それとも僕とプレイすることに前向きでないのか、区別する自信が僕にはない。相手チームはスカイプで会話をしているかもしれない。僕たちもスカイプでしないとフェアじゃない。

 もうすこし暇があればチームを組んで遊ぼうと思ったかもしれないけれど、とりあえず今の僕の生活を踏まえるとそれらの諸問題をすべてクリアするのは難しかった。なので、そこらへんはうまい落としどころを任天堂に考えてもらうとして、僕は野良をやることにした。野良プレイヤーとしての強さを希求することにした。

 最初からあったシステムだけあって、野良マッチはおもしろい。

 敵のリッターが高台にいて、味方を狙撃してくる。定番の高台でわかりやすい場所だが、定番だけあって厄介だ。こちらにもリッターがいるし、スーパーショットが打てそうなスプラシューターコラボもいる。でも誰もリッターをおろす気配がない。僕のイカは手にダイナモローラーを握っている。どうするか。自分でおろしにいくしかない。壁を殴っても仕方がない。コントローラーを投げてもリッターは壁から降りてこない。敵の色のインクの海のむこうにそびえ立つ高台に向かっていくしかない。

 ヤグラが敵に取られてしまっている。なんとかヤグラを止めようとする。でも手元のマップを見ると、なぜか味方チームの二人が敵陣を塗っている。なぜかはわからない。なにか彼らにも考えがあるのかもしれない。しかしとにかくヤグラは進んでいる。どうするか。自分で止めるしかない。一応カモンの合図ぐらいは出しておこう。でもきっと誰もこないに決まっている。4人乗りの敵ヤグラを、バケツ片手に一人で止めるしかない。いいとか悪いとか、ツライとか楽とかそういう話ではなくて、止めるしかないのだ。

 自分がやることをはっきりと決めること、人の行動を決めつけたり期待しないこと、これが野良マッチには要求される。あとは運だ。まあ普段の生活と同じといえば同じだ。誰もが同じ条件で参加しているわけだから別にアンフェアではない。たしかにタッグマッチの華麗なチームプレイ動画を見たあとだとがっかりすることもあるが、それは比較対象として間違っているのは先に述べた。それに、悪いことばかりに目がいくけれど、どこかにいる誰か知らない人とたまにうまい連携ができたりすることもある。そういうときは「こういう面白いゲームが発売されるんだからまだまだ死ねないな」と思う。

 そのように考えて僕は野良でガチマッチをやることにした。そして武器とギアの選定を始めた。2015年の夏を振り返ってみると僕はそれしかやっていなかったような気がする。まあ楽しいからいいか。